頑固な眩暈
益気昇清,養陰生髄,化痰活血による頑固な眩暈治療
『中医臨床』v34-4(2013年12月) 丁元慶 治験報告No.18
患者:女性,70歳。
初診日:2008年3月12日
【主訴】眩暈に悪心・嘔吐を伴う発作が繰り返し現れるようになり9ケ月。
発汗・便意・耳鳴りを伴い,夜間に発作が現れる。口乾・口苦・食事量が少ない・げっぷ・記憶力の低下。せっかちでイライラしやすい。
舌診:舌質喑紅,舌苔薄白で中心部が黄膩
【中医診断】眩暈
【西洋医学的診断】①前庭性偏頭痛(?),②慢性脳循環不全
【弁証】気陰虧虚,清竅失養,痰瘀内結,肝風上擾
【治法】益気昇清,養陰生髄,化痰活血,柔肝定眩
【処方】益気活血方(筆者創製方)加減
黄耆・麦門冬30 当帰・葛根・丹参・天麻・枸杞子・菊花・旋覆花15 半夏9 淫羊藿6,6剤
第2診(3月19曰)
白く粘り気のある痰が出る,痰熱阻滞・肝風内動である。
【処方】前回処方-旋覆花,+知母15 川貝母9 6剤
第3診(3月26曰)
カゼを引き,清涕・軽度の咳・白く粘り気のある痰が出る。
【処方】前回処方-半夏,+桑葉15 荊芥穂9 6剤。
第4診(4月2曰)
白く吐き出しやすい痰が出る。
-桑葉・荊芥穂・知母,+党参・石斛(益気養陰),陳皮・半夏(化痰解表)
【処方】黄耆30 党参・天麻・菊花・石斛・淫羊藿・鬱金・全当帰・葛根・丹参15 陳皮12 枸杞子18 半夏・川貝母9, 6剤
第5診(4月9曰)
夜間の口乾,寝つきが悪く,目を覚ましやすい。
【処方】前回処方-半夏,+酸棗仁30 6剤
第6診(4月16曰)
食事量が少なく便が硬い,気陰虚により肝胃不和。
【処方】前回処方-淫羊藿・陳皮,+決明子30 青蒿15 蘇梗12 薄荷9 6剤
第7診(4月23曰)
口乾・脈沈細・疲労しやすい,気陰虧虚。
【処方】前回処方-薄荷・決明子・蘇梗,+麦門冬30 茵陳蒿15 6剤
第8診(4月30曰)
静かにしていることを好み騒がしいのを嫌う,元気不足・陰火内生。
【処方】前回処方-鬱金,+黄柏9 6剤
第9診(5月7曰)
眩暈は緩和されたが,舌と脈の状態に変化がみられない,病機は根本的に変化していない。処方は変更せず,丸剤に。
第10診(6月11曰)
湯剤の服用を停止すると再び症状が現れる,高齢者の正虚は,迅速には回復しない。益気昇清・養陰柔肝・活血化痰。
【処方】黄耆・太子参・麦門冬・酸棗仁・浮小麦30 当帰18 川貝母9 天麻・丹参・葛根15 五味子・炙甘草12, 6剤。後は続けて丸剤を服用する。
第11診(8月13曰)
季節は盛夏,気陰の保護が必要。
【処方】①前回処方-浮小麦,麦門冬を60に変更,+五味子9 枸杞子15 6剤
②黄耆・当帰・天麻・枸杞子150 党参・酸棗仁・黄連・菊花・玉竹120 丹参・百合・葛根・川貝母・茯苓90 水丸。
第12診(9月3曰)
長夏の季節は,気陰を消耗しやすい。
【処方】黄耆・沢瀉20 党参・栝楼・天麻18 百合・浮小麦30 麦門冬45 紫石英15 半夏・川貝母9 石菖蒲12 6剤 また上記6剤で水丸を作る。
第13診(9月10曰)
姿勢を変えると,悪心・嘔吐を伴う眩暈が現れる,立位が安定せず,発汗多く,口乾。暑熱に痰が加わると,土虚木盛となり,風気が内で動く。
【処方】前回処方の黄耆を30に変更,+人参6 黄連9 夏枯草・菊花15 6剤用いて水丸を作る。
第14診(12月17曰)
半年にわたる治療を経て,気陰が徐々に回復し,臓腑も安定してきた。ちょうど「閉蔵」の季節を迎えたため,補養気陰・昇降気機・化痰活血を行う。
【処方】黄耆・菊花24 人参6 葛根20 丹参18 当帰・茵陳蒿・天麻15 沢瀉・百合・酸棗仁30 黄柏12 川貝母9, 7剤
第15診(12月24曰)
気陰虧虚・気化無力により痰熱・湿濁が内蘊しているため,和中化濁を兼ねる。
【処方】前回処方+茯苓15 荷葉9,7剤
第16診(2009年3月17曰)
もともと気陰虧虚であるため,痰濁が溶けにくい。疏利清化・益気養陰を行う。
【処方】当帰六黄湯(瀉火清熱・益気養陰),葛根黄芩黄連湯(清熱燥湿)
黄耆24 当帰・天麻・茵陳蒿15 麦門冬・百合・酸棗仁30 葛根20 黄芩・川貝母9 丹参・生地黄・熟地黄・黄柏12, 8剤
第17診(5月27曰)
頭部や眼がすっきりせず,多夢・口乾は,気陰虧虚が回復せず,痰熱・瘀濁が除かれていない。養陰化痰を堅持する。
【処方】前回処方+玄参・竹茹128 7剤用いて蜜丸を作る。
第18診(6月3曰)
頭部と眼がすっきりし,気力・体力ともに良好。
第19診(12月2曰)
舌と脈の状態は,初診時と比べてほとんど変化していない。湿熱・瘀濁がとけずに,体内で結びついている。
【処方】前回処方の茵陳蒿を20に変更,+黄連12 党参15 三七粉10 7剤用いて水丸を作る。
第20診(2011年7月13曰)
益気陰・化痰瘀・昇清陽・調気血を堅持する。
【処方】黄耆・麦門冬・酸棗仁30 天麻・枸杞子・葛根18 巴戟天・当帰12 生山楂・丹参・沢瀉・石斛・淫羊藿・陳皮15 半夏・黄連・黄柏9 7剤用いて水丸を作る。
第21診(2012年11月7曰)
舌と脈の状態は,初診時と比べて顕著な変化がみられない,高齢の正虚に乗じて邪気が侵入している。症状が現れていないからといって,病態ではないと軽率に判断してはならない。益気養陰・化痰活血を行い,合わせて腎元の保護も。
【処方】①前回処方の黄連を20に変更し,+山薬15 山茱萸20 7剤用いて水丸を作る。
②黄耆24 麦門冬30, 7剤,2日で1剤を服用。
第22診(2013年8月14日)
舌質喑紅・脈沈細というのは,正虚により血瘀となっているため。
【処方】前回処方-黄柏,+三七粉10 7剤用いて水丸を作る。
【筆者体得】
本症例は虚実挾雑証であり,気陰虧虚証に属する。黄耆に麦門冬を配すると,甘温により益気を行っても乾燥が過度にならず,甘寒により養陰を行っても,薬性が「膩」となって痰・瘀の原因を作ることもなく,益気養陰・補虚寧心を行える。終始一貫して益気養陰・化痰活血・昇清柔肝の法を用い,初診時の処方を加減して使用している。岳美中氏が「急性疾患の治療は,度胸と知識が必要であり,慢性疾患の治療は,その疾患に適した処方を堅持することが必要である」と言っている。
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