« 内経知要7 | Main | 内経知要8 »

陽明熱・陰虚による不眠

安神薬を用いない熱盛瘀熱・陰虚神浮の不眠治療
『中医臨床』v38-2(2017年6月) 丁元慶 治験報告No.32

患者:男性,50歳,長距離ドライバ一
初診日:2010年3月10日
【主訴】2力月余り前から,眠りが浅く目を覚ましやすくなった。一晩で3時間ほどしか眠れない。また5年前から排便が困難である。目がショボショボして,ずっと目を開けていられず,気力・体力ともに劣っている。

唇が乾燥してひび割れしやすく,口渴多飲・歯茎の腫痛が現れており,ひどくなると口内炎もでき,顔面,特に顎に痤瘡が現れる。食欲は正常だが,5年ほど前から大便乾結・排便困難となっている。
喫煙歴は30年(1日10本),飲酒歴は20年(白酒を150~250ml/日)。肉の脂身を好んで食べている。
【舌診】舌質紅で舌体胖,舌苔薄黄膩で中間部は剝がれている
【脈診】弦滑
【中医学的診断】①不寐②便秘③痤瘡
【弁証】陽明熱盛・蘊瘀成毒・傷陰擾神
【治法】滋陰增液・清熱降火・寧心安神
【処方】増液湯『温病条弁』加減
生地黄20 玄参18 麦門冬・百合30 蘇子18 決明子30 懐牛膝・沢瀉15 全当帰30 炒杏仁9 桃仁12 郁李仁30, 7剤

第2診(3月17曰)
口の乾きがひどく,飲水量も多くて,口が苦く 口臭がある。
処方:前回処方の玄参を30に変更,+黄連・竹葉9, 7剤

第3診(3月31曰)
便がゆるく形にならず,ロ渴多飲ではなくなったのは,陽明の火熱が徐々に減少し,穢濁の気が降り始めている。後頭部に結節がみられ口臭があるのは,陽明の瘀熱や蘊毒が滞り,営衛がのびやかでなくなって,心神不寧となったためである。
処方:生地黄20 玄参15 麦門冬30 黄芩12 連翹30 牡丹皮・漏芦15 桔梗12 夏枯草18 竹葉9 竹茹・浙貝母15 珍珠粉3(冲服), 7剤

黄芩・連翹・竹葉・牡丹皮(清熱瀉火,解毒涼血),漏芦・桔梗・夏枯草・浙貝母(清熱降火・解毒散結),珍珠粉(清熱安神・解毒医瘡),竹茹・桔梗・夏枯草(化痰清熱・除煩安神)

第4診(4月7曰)
後頭部の結節が消失したが,顎の痤瘡が再発し尖端部が化膿している。(陽明熱熾・陰虚湿潤)
処方:前回処方の黄芩を15に増,+桑白皮15 沙参24, 7剤

第5診(4月14曰)
両目が乾いてショボショボし,夜間に耳鳴りがし,口中がネバネバしてやや乾,便がゆるくて排便後もすっきりせず,飲水量は多くない。(陽明の湿熱・穢濁が内にこもっている)
処方:茵陳蒿湯加味
茵陳蒿24 山梔子9 酒大黄6 麦門冬30 玉竹15 北沙参20 金銭草24 桑白皮・薤白15 懐牛膝18 沢瀉20 鬱金15 杏仁9, 7剤

麦門冬・玉竹・沙参(養陰益胃),桑白皮・鬱金・金銭草・薤白(瀉肺清熱,利湿降濁),山梔子・桑白皮・杏仁(清肺利気・疏利気機)

第6診(4月21曰)
睡眠時間が長くなり,眠りは浅いがまたすぐに寝付くことができて,日中の気力・体力ともに改善した。病が転換期を迎えたことを示している。夜間の耳鳴りや,便がゆるくて排便後もすっきりしないのは,陽明の蘊熱がいまだ尽きていないためである。(頭痛耳鳴,九竅不利,腸胃之所生也。『素問』通評虚実論)
処方:前回処方-酒大黄,+生牡蛎24 鶏内金15, 7剤

生牡蛎・山梔子・沢瀉(清熱散結・鎮静安神),鶏内金・金銭草・山梔子(清利湿熱・和胃安中)

第7診(5月18曰)
蘊熱・湿濁がすでに去り,陰虚津傷も徐々に回復してきた。
処方:茵陳蒿24 山梔子9 麦門冬30 玉竹15 北沙参20 金銭草24 桑白皮15 懐牛膝18 鬱金15 杏仁9, 7剤(1剤を2日分とする)

筆者体得
タバコの煙は火熱の気であり,火熱の気は焼烤燻灼の害をもたらし,火を動かして痰を生みやすい。また酒は熟穀の液であり,形態は水だが火の性質があるため,白酒は水と火両方の性質を兼ね備えている。飲酒と喫煙の期間が長引けば火熱内熾となり気機を妨げ,湿熱・痰濁・瘀血の結滞を招く。
王冰曰く「寒之不寒,是無水也。壮水之主以制陽光」〔寒性の薬を用いても熱が去らないのは,無水陰虚である。壮水補陰を行って陽を制しなければならない〕
本症例は,基本的に安神薬を用いず,養陰清熱・暢利陽明気機に全力を注いで,最終的に「気得上下,五臓安定」〔気がスムーズに全身を流れていれば,五臓は安定する〕という状態になった。
『素問』逆調論第三十四 「陽明経は胃の経脈であり,胃は六腑の気血の源であって,胃気は正常であれば下降する。胃気が上逆すると,患者は眠れなくなる。

|

« 内経知要7 | Main | 内経知要8 »

治験」カテゴリの記事

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



« 内経知要7 | Main | 内経知要8 »