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誤嚥性肺炎

益気養陰・清熱化痰による難治性の誤嚥性肺炎治療
『中医臨床』v39-1(2018年3月) 丁元慶 治験報告No.35

患者:男性,75歳
初診日:2015年12月21日
【主訴】発熱を繰り返し3力月,3度ICUに入った。体温は37.8で,酸素マスクをつけて呼吸をしている。自力で痰を吐くことができず,1日に7〜8回喀痰吸引を行っている。この数日間は便通がなく,意識もはっきりとせずにほとんど眠っている。

【舌診】舌質紅で絳に近い,舌苔黄で無津
【脈診】滑細浮数で無力
【中医学的診断】①発熱②喘証③虚労
【西洋医学的診断】①誤嚥性肺炎(重症)②慢性的な消耗期
【解説】肺気の宣発の力が弱まると痰が内生し,正気と邪気が争うために発熱する。さらに痰熱が阻滞すると,スムーズに呼吸ができなくなって黄色い痰を吐くようになり,痰熱が心神を覆うために,意識が朦朧とする。便通がないのは痰熱が気機を阻害しているためであり,痰熱が陰を傷付けるために精神不振となって,話をする力もなくなる。
肺と大腸は表裏の関係であるため,肺を瀉す場合はまずその腑である大腸を通じさせるとよい。腑気がのびやかに通じれば,痰熱が下部から排出されて気機もスムーズに流れるようになり,肺気の宣粛の力も回復して,肺に溜まり気道を塞いでいた痰熱も消える。
【治法】補益気陰・通腑化痰・清熱開竅・扶正固脱
【処方】生脈散加減
人参(単煎)10 麦門冬45 五味子12 炙甘草・栝楼15 北沙参20 金蕎麦根24 桔梗9 酒大黄3 人工牛黄粉(別服)1 山茱萸24, 5剤(経鼻投与)

第2診(12月26曰)
体温が正常に戻り,呼吸に力があり,意識もはっきりしてきて,諸症状が安定傾向にある。自力で痰を吐き出せるようになり,喀痰吸引は1日に2〜3回。便がゆるくなった。
処方:前回処方-酒大黄・桔梗・金蕎麦根,栝楼を18に増,+当帰・百合・冬瓜子・川貝母
(人参(単煎)10 麦門冬45 五味子・炙甘草12 百合30 全栝楼18 全当帰・沙参20 山呉茱萸24 冬瓜子30 川貝母6 人工牛黄粉(別服)2), 7剤(経鼻投与)

第3診(2016年1月10日)
ICUから一般病棟に転科した。
処方:前回処方+熟地黄・石斛・白果仁・半夏
(人参(単煎)10 麦門冬60 五味子12 炙甘草9 金蕎麦根24 桔梗12 北沙参20 全当帰12 川貝母9 熟地黄30 山茱萸20 白果仁10 石斛18 半夏9, 7剤(経鼻投与)

第4診(1月16曰)
喀痰は顕著に減少した。+竹瀝30ml×3(化痰養陰・滋燥潤肺)
処方:人参(単煎)10 麦門冬45 五味子12 桔梗・車前子15 川貝母9 山茱萸24 山薬15 金蕎麦根30 玉竹18 清半夏9 陳皮18 北沙参24, 15剤(経鼻投与)

第5診(3月12曰)
清営湯の方意を摸し,金銀花・鬱金・竹葉・黄連を用いて蘊熱を清する。現在は病状が安定しているため,2日で1剤の服用とする。
処方:西洋人参(単煎)12 麦門冬45 五味子12 炙甘草10 桔梗15 川貝母9 枸杞子・北沙参20 金銀花24 石斛18 淡竹葉・鬱金12 黄連3, 7剤

筆者体得
嚥下という動作は,神機が制御し協調することにより,仔細な動作を行うことができるのであり,もし髄海が損傷すると,神機がうまく働かず,生理機能全体の協調性が失われるために, 咽頭・喉頭や喉頭蓋の調和がとれなくなって嚥下障害が現れる。
補腎塡精・生髄充脳・協調機竅を行うと,嚥下機能が調整されて,嚥下障害が軽減する。この点が本症例治療のポイントである。
「腎は作強の官であり,人体における作用が強大なため,知恵を働かせたり緻密な作業を行ったりするのは,腎が正常に働いて初めて成り立つ」というが,嚥下や発声はすベて緻密な動作であり,「伎巧」の類に属する。
『弁証録』の人参大黄湯の方意を摸し,大黄を用いて通腑瀉熱を行ったが,これにより,痰熱が下部に流れ体外に排出される機会を得た。
『医学衷中参西録』には,山茱萸肉は「酸味で温性である。収斂元気・振作精神・固渋滑脱を大いに行える」と記されている。このため山茱萸を用いて,腎の納気の力を助けて,呼吸を有利にした。
※素問霊蘭祕典論に曰く:「腎は作強の官、伎巧(工芸)出ず」とあるが、「嚥下や発声は‥‥「伎巧」の類に属する」との指摘は“目から鱗”である。

 

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