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顔面神経麻痺

『中医臨床』v40-1(2019年3月) 丁元慶 治験報告No.38
陽明論による急性顔面神経麻痺の治療

患者:女性,24歳
初診日:2004年10月18日
【主訴】5日前から口が歪んでしまいました。最初は左耳の中が痛くて,その2日後の朝,歯を磨いているときに口元が右側に歪んでいることに気が付きました。心配であまりよく眠れません。

【舌診】舌質喑紅,舌苔薄黄
【脈診】弦細沈
【中医診断】口僻
【弁証】風邪侵襲・阻滞陽明経脈
【西洋医学的診断】急性顔面神経麻痺(左)
【解説】
労すれば気を消耗し,気虚になると衛外不固となって外邪が侵入しやすくなる。『霊枢』経筋篇には「足の陽明や手の太陽経の筋がひきつれると,口や目が歪んで僻となる」とある。陽明は筋肉を主り,手足の陽明経は顔面を循環している。口僻は,まず外邪が手足の陽明の経脈を襲うことで現れる。
突然風邪を受け,それが足の陽明の経脈を侵したために営衛失和となった。このため病側の筋脈が養われずに無力となって,反対側の筋肉に引っ張られて口や目が歪んだ。邪気が阻滞したために気血がスムーズに流れなくなり,経脈不和となった象である。
【治法】疏風散邪・通利経脈・調和営衛
【処方】葛根湯加減
葛根30 荊芥穂12 生白芍15 炙甘草9 蟬退・僵蚕15 天南星6 天麻15 豨簽草30 桑葉24, 6剤

第2診(11月1曰)
労損傷正となり正虚が回復しきれていないため,まだ完全に目を閉じたり歯を見せたり頰を膨らませたりすることができない。
処方:葛根湯+清陽湯《脾胃論》加減
生黄耆30 当帰12 葛根・夜交藤30 紅花3 蘇木・天麻12 僵蚕15 桂枝6 炙甘草9 麦門冬24 天南星6, 6剤

第3診(11月8曰)
顔面部はすでに対称的になり,顔面神経麻痺は完治した。鼻の近くに粟粒状の紅疹が現れたが,化膿はしておらず痒みもない。患者は肺胃に熱が結したために,穢濁の気が下降しなくなり,湿熱が経を循環して上部をわずらわせ,鼻の横に結したことから皮疹が現れた。
処方:白鮮皮湯
白鮮皮15 苦参98,当帰・徐長卿15 枳殻12 浮萍・製何首烏15 蟬退9 香附子15, 6剤

第4診(11月21曰)
精神的に緊張すると,顔面の左側に不快感が現れ,舌の左側が痺れる。起床時に耳の中が痛くなるが,しばらくすると痛みはなくなる。顔面麻痺は第3診時にはほぼ完治しており,発症からすでに6週間が経過しているので,舌の痺れは精神的緊張が原因であると考えられる。もう暫くは,清理肺胃結熱・疏達気機・清利湿熱を行って治療する。
処方:葛根30 生白芍15 桂枝9 黄芩12 豨簽草24 天南星6 天麻・僵蚕15 炙甘草9 連翹30 黄耆24 当帰15, 6剤

筆者体得
陽明は多気多血の経であり,顔面を循環している。不摂生により衛外不固となると,邪気が頭部・顔面の陽明経を侵し,気血失和・筋脈失養となって本疾患が発症する。
本疾患は,風が寒熱や湿熱の邪気を伴って陽明の経脈を侵し,また営衛失和と関連があるが,表には影響を及ぼさない。このため,本疾患に表証は存在しない。(麻黄・桂枝は用いない)
『本草新編』には「葛根はもともと陽明の生薬であり,少量を使用すれば肌中の風を散らし,多く用いると胃中の熱を取る」とあり,1つの生薬で2つの使い道がある。
寒邪が営から府に入り,邪気が胃中に入ったとしても,すベてが胃に入ったわけではなく,半分は営分に留まっていることがある。このような場合は,葛根を用いると営・衛ともに解決する。これこそが葛根湯に葛根が用いられているゆえんである。

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