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心臓病薬の嚆矢

《傷寒論》22条:"太陽病,之を下して后,脈促となり胸満すれば,桂枝去芍薬湯が之を主る"。
これは陽病が陰に及ぶという,"陰陽会通"の病理を現している。
太陽病に下法を誤用して,脈促・胸満の証を出現したのは,心陽受損の情況が起きたからである。
心陽受損の后に,その補償として,仮性興奮となったのが,反って数にして,時に止る脈である,按ずれば無力なのが特徴である。

胸は心の宮城であるゆえ,之を誤下すると,血寒が始まり,胸満・気短・心悸の証を現わす。
桂枝去芍薬湯は心臓病治療薬の嚆矢であり,世界で最初に史冊に載ったものである。
脈促・胸満が心病の主脈・主証であると記録したの事は,素晴らしい貢献です。
然し心陽が一たび虚すと,すぐに腎陽の虚へと累及する。
《傷寒論》23条:"若し微寒すれば,桂枝去芍薬加附子湯が之を主る。"
本文の"微寒"の証については,注家の解釈が分かれるが,后背に出現する悪寒と考えられる。
"陽虚すれば外寒を生ず"である。
背は陽の府,心は生命の源,その二つが失われると,生命の危機となるのは明らかである。
此の証には少なからず危機が内伏されている。
仲景は桂枝湯から陰性薬物の芍薬を去り,力大気雄の陽性薬物である附子を加入したが,"微寒"には陽気の孤危することを急いで防ぐ意味が見える。
陳修園先生は"治病には心細・胆大・手速を要す"と警句を発している。
"手は速く"とは,仲景の書を善く読めとの意味である。

症例:王某,男,46歳。
多年来の胸中憋悶があり,時には疼痛し,畏寒悪風があり,后背で著しい。
脈は弦緩で,手を握ると凉である。
小便を問えば清長といい,舌を視ると淡嫩で滑苔である。
余は脈証から,少陰心腎の陽気不足・陰霾上蒙と辨証した。※霾(もや)
用いたのは桂枝去芍薬加附子湯で,少陰の陽を温補し,"火の源を益して,以って陰翳を消す",連服すること六剤にして,病は安きを得た。
 劉渡舟『医論医話100則』より

なぜ芍薬を去るか?
胸悶ー桂枝去芍薬湯

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