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蘇軾と聖散子方

東洋学術出版社の「仝小林院士 特別講座 COVID-19 の中医の認識と治療」2020.4.3 で、430人の新型コロナ軽症患者のうち1例も重症例を出さなかったという寒湿疫方(武漢抗疫方)誕生の由来が次のように述べられています。

1079年から1084年の間,当時,⻩州(⻩岡市)に流謫された蘇東坡は寒湿の疫に遭遇しました。その時,彼は,友人から「聖散子方」という処方を手に入れました。この処方は,表裏両感・衛陽鬱閉・高熱無汗・食欲不振,あるいは時疫の感受,神昏癲狂,病状が重篤な者を治療するためのものです。
中医薬管理局の医療チームは、この疾患(新型コロナ)の核となる病機は寒湿疫だと捉え,宣肺化湿の方法を用いて,当時(聖散子方を基にした)「武漢抗疫方」と呼んだ処方を創製しました。

寒湿疫方(武漢抗疫方)(生麻黄6 生石膏15 杏仁9 羌活・葶苈子・貫衆・地竜・徐長卿・藿香15 佩蘭9 蒼朮15 云苓45 生白朮30 焦三仙9 厚朴15 焦檳榔・煨草果9 生姜15)

一方、苏轼与“圣散子方”の解説には:
北宋時代の元豊三年(1080)の正月の初日、蘇軾と長男の蘇邁が首都を離れ、広州に左遷されました。父子は 1か月以上の旅の後、2月の最初の日に広州に到着しました。その年に広州で疫病が発生し、猛威を振るい急速に拡大し、人々は死線に苦しみました。この逆境を眼にした蘇軾は、自分の利益や安危を顧みず、洪水と旱魃(水深火熱)に苦しむ民の事を心配しました。彼の手には一つの秘方があり、その方名は“聖散子”といった。

聖散子方《傷寒総病論》:“肉豆蔻(十个)、猪苓、石菖蒲、茯苓、高良姜、独活、柴胡、呉茱萸、炮附子、麻黄、厚朴、藁本、芍薬、枳殻、沢瀉、藿香、白朮、防風、細辛、半夏(各半両)、甘草(一両)。”

蘇軾は《聖散子叙》の中で説く:“凡そ陰陽二毒,男女相易,危急に至る者,連飲すること数剤にして,即ち汗出て気通じ,飲食稍ヤヤ進み,元気が完復する,更に諸薬連服を用いずとも差支え無し,其の余の軽き者は,心額に微汗し,止まれば恙ツツガなし……若し時疫流行すれば,大釜中で煮て,老少良賎を問わず,各一大盞を服すれば,即ち時気は其の門に入らず……真に済世の具,家の宝也。”

また、日本医史学雑誌第50巻第3号(2004)に小高修司による論考が載っています。

蘇軾(東玻居士)を通して宋代の医学・養生を考える
―古代の気候・疫病史を踏まえて「傷寒論」の校訂を考える

本処方は彼が著者の一人とされている「蘇沈良方』(蘇軾・沈括撰一○七五)巻三に出ており、「鶏峰普済方」(張鋭、1133)巻五には「聖沢湯」として、また『太平恵民和剤局方』(1151年に改名して刊行)には「聖散子」として発表されている。両書に多少の字句の相異はあるが、『和剤局方』の記述では「傷寒、時行、疫瘤、風温、湿温を治し、一切の陰陽両感を問わず、表裏を未だ弁ぜず、或いは外熱内寒し、或いは内熱外寒し、頭項腰脊の拘急疼痛、発熱悪寒、…並びて之を服すに宜し」とある。
その構成生薬は附子、麻黄、細辛、高良姜、草豆蔻、藿香などの温熱薬が主であり、後述するように主たる対象疾患は狭義の傷寒であろう。ただ附子などの温熱薬が主薬である以上、『和剤局方」等が記している「広義の傷寒病に広く適応される」とする論は非常に誤解を受けやすく危険である。本処方は『医方類聚』巻五十二 和剤局方や『無求子活人書」『永類鈐方」でも取上げられている。
「聖散子叙」に「もし時疫流行すれば、大釜で之を煮て、老少良賎を問わず、どんぶり一杯飲めば‥‥飲食は常の倍になり、百疾が生ぜず、衛家の宝なり」「黄州に謫居(1080〜83)の年に時疫があり、この薬を散じて用い大いに有用であった」という趣旨のことが記されている。
蘇軾が遭遇した杭州大疫(1089〜1092)の時、彼はその洪水と旱魃による飢饉と疫病の状況を見て、北宋朝廷に供米の減免、粥薬の提供、医師の派遣願いを奏上し、下賜金を得て病院の建立に賛助した。また政府も医薬恵民局を作り既製処方の提供を行った。そのときの杭州の惨状を彼の「杭州上執政害二種」の記述を見ると「去年杭州中部は、冬に雷が鳴り大雨のため太湖の水は溢れ、春になってもまた降り続き…稲は水没してしまい、…五、六月になっても種から芽が出るのは十の内四、五に過ぎない状況である。しかもこれに続いて、逆に日照りとなる有様で‥‥元豊以来、民の艱難ひどく、軾は今まで三回も奏上したにもかかわらず、未だ報われず…」、とある。

※武漢で採用された寒湿疫方という処方は、長い歴史背景の末に生まれたものであることが分かります。このように中医学が伝統を重んじ、経験を生かして今日まで伝えられているのはありがたいことです!

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